男子厨房に入らず

農繁期にアルバイトに来る女性のほとんどが勤労主婦である。

農作業も午後三時をまわった頃に、いたずらっぽく

「今日の晩御飯、何をつくられます?」

と尋ねるのだが

返ってくる返事のほとんどが

「今、思案中!」とのこと。

「旦那には、何食べたい?と聞くんだけど・・・何でもいい・・・この返事って困るうえに、イラッとするのよね。」

旦那連中からすると嫁さんに気を遣っての返答のつもりなのだが・・・

晩飯は旦那の食べたいものを積極的にリクエストする、どうやら、そのほうが嫁さん連中には有難いようである。


話が晩飯のメニューでとどまれば、何のことは無い。

困ったことは、その話の延長線上にある。

「俺、夕食を食べ終わったら、自分の食器をシンクまで持って行って、自分の分だけでも洗うよ。」

えっ!マジかよ

「ワシ、休みの日には晩のおかずをつくってやるんよ。共働きやけんな。」

模範的な主夫をPRするかのような発言が男性陣から次々に出てくる。

余計なことを! と内心、チッ、チッと舌打ちするのだが

当然のように女性陣からは称賛の嵐である。


「松本さんも、もちろんされているんでしょうね。」

「・・・・・」

しばらくの沈黙の後こう答える。

「仕事から帰ってくると、疲れて何もする気力が湧かないんよ。それに男子、厨房に立つべからず、って言うでしょ。」

それに対して女性陣からは猛烈な反論である。

「女も疲れて帰ってきているのよ!」

女も疲れている!

これには言い返す言葉が全く見つからない。

たちまち、女性陣のみならず模範的主夫からの減点評価だ。


私が子供の頃、我が家では正月の雑煮作りは男の役割であった。

その理由はというと・・・

年に一度は台所に立つ嫁の苦労を感じる、あるいは、毎日食事の支度をする女への感謝の気持ちを込めて、そういったとこにあるのだろうと想像する。

山仕事を終えた後、かまどに薪をくべ、飯を炊いていた当時の女性の苦労をした姿を想像すれば、正月の雑煮作りくらい男がやっても、当然といえば当然の話である。

ただ、今の松本家では男の雑煮作りもやまってしまったけれど・・・


女性陣だけでなく男性陣からも猛烈な減点をされたその日の夕食後のこと

今日ばかりはと

黙って自分の食べ終わった食器を流しまで持っていった。

不思議そうに、それを眺める嫁。

いつもとは違った空気が流れる。

気まずいというか照れくさいというか・・・

やっぱり、我が家は男子厨房に入らず・・・だ。

これでいいと思っている。




みかんの ふるさとから

愛媛の宇和島市吉田町でミカンつくりに励む農家のサイトです。 松本農園

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