ヤマモモ

みかん農家にとって、夏場の作業は過酷だ。

容赦なく照り返す日差しと暑さ。

その中での作業は体力をあっという間に消耗させられる。

熱中症の心配もおおきいので休憩を小まめにに挟みながらというのが夏場の百姓の働き方である。


梅雨の晴れ間の蒸し暑い中。

木陰で、ひとり一息ついていると、雑木の中にあるヤマモモの朱色が目に留まる。

その鮮やかな色に

一年前の記憶がすっと蘇ってきた。


お手伝いさんの雇いの最終日。

そのうちの、おばちゃんひとりが雑木林の中にあるヤマモモの木を見つけ出した。

見てみると、大粒で朱色の色鮮やかなヤマモモが点々と実をつけていた。

長年、この畑で仕事をしていながら、この野生のヤマモモの存在には全く気が付いていなかった。

昼食後、「採りに行こう!行こう!」と

雇いの最終日、ちょっとしたサービスのつもりで、私もヤマモモ採りのお手伝いをかって出た。


今時、ヤマモモなんか食べるの?

少しばかり嫌味をいいながら枝に手を伸ばす。

確かに、私たちが子どもの頃は、今の時代ほどおやつが豊富ではなかったし、おやつを買ってくれるほどの経済的な余裕もなかった。

種ばかり大きくて実が少なく、甘さよりも酸っぱさを感じる果実。

それでも、当時の私たちにとっては、おやつの代わり、いや、おやつといってもいいような果実であった。

野イチゴに、ユスラウメ、びっくりぐみ、今やビワでさえ実っていても、見向きもしなくなってしまった。


ヤマモモのすうっと伸びた枝を必死で、引き寄せて小枝ごと手渡す。

まるで、子どもに帰ったかのように、大喜びで受け取っては

丁寧に袋に詰め、時々、口に入れては懐かしそうにヤマモモの味を楽しんでいるふたり。

その姿に子供時代の面影がすっと頭によぎり、自然と笑みがもれた。


これからは夏の容赦なく照る日差しの中での作業となる。

空には積乱雲、セミの鳴き声、集落の田んぼでは春に植えられた稲が勢いよく伸びてきた。

季節の変化を肌で感じながら営むのが農業の良さともいえる。

今年の夏も暑くなりそうだ。

もちろん、ひとり仕事だ。

寂しい中でも、頑張って乗り切らなくてはならない。

みかんの ふるさとから

愛媛の宇和島市吉田町でミカンつくりに励む農家のサイトです。 松本農園

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